Ryugin Research Institute Ltd.

調査レポート

改正薬事法施行と県内OTC医薬品販売の動向~医薬品販売業界における今後の課題~

要旨

1.2009年6月に改正薬事法が施行された。今回は、一般用医薬品(OTC医薬品)の販売制度が見直され、これまでは行政指導のみだったOTC医薬品の販売方法や取扱ルールがはじめて明文化された。
薬事法改正の背景には年間34兆円を超える国民医療費問題がある。国は軽い疾病であれば自分で対処するセルフメディケーションを推進することで、医療費の削減を目指しており、医薬品販売の現場においてそのリスクの程度に応じて適切な情報提供と相談対応がなされる制度を構築する必要があった。

2.今回の法改正では、OTC医薬品がリスクの程度に応じて第1類から第3類までの3つに分類され、医薬品販売の新たな専門家として「登録販売者」が設置された。またOTC医薬品の販売形態も整理された。一方でインターネット等通信販売は2年間の猶予期限後に禁止されるなど、今回の法改正は規制緩和と規制強化が混在したものとなった。

3.登録販売者がいればOTC医薬品の95%を取扱えることから、全国的には大手スーパーやコンビニエンスストア、家電量販店などからの新規参入の動きが活発化している。これに対してドラッグストアや調剤薬局など既存業者は24時間営業やカウンセリング業務の強化などで対抗する動きをみせている。またOTC医薬品販売から在宅医療など他の分野への進出や、業態の異なる小売同士が業務提携するなど新しい動きもでている。
これまではOTC医薬品販売の8割をドラッグストアや薬局・薬店などの専門店が占めてきたが、規制緩和による新規参入で多くの業態が競合し、価格やサービス面などで競争が激化するので、1つの業態がシェアの半分以上を占めるのは困難であろう。

4.県内の各業態を代表する企業へヒアリング調査したところ、沖縄県では、ドラッグストアが新規参入組に対する強い危機感を抱いており、調剤薬局や配置販売業(置き薬)はOTC医薬品販売以外の分野への進出を検討しているとのことであった。
また、スーパーやコンビニエンスストアなどの新規参入組では、スーパーは既にOTC医薬品販売を開始しているが、コンビニエンスストアは少なくとも現状では様子見の段階であるとのことであった。

5.業態ごとに現状と課題等をみていくと、

(1)薬局:沖縄県の薬局数はほぼ横ばいながら、大手ドラッグストアなどの進出で個人薬局が淘汰されているとみられる。今後、一定規模以上の多店舗展開する調剤薬局では医療的な業務が増加するため、OTC医薬品販売は、医療用医薬品からOTC医薬品に転用したスイッチOTCの取り扱いが中心となり多くは縮小していくとみられる。一方、小規模の個人薬局が存続するには、地域のかかりつけ薬局としての機能を充実させ、ドラッグストアや新規参入組と差別化を図る必要があると思われる。

(2)ドラッグストア:沖縄県のドラッグストア数は小規模店舗が淘汰され全体として減少している。ドラッグストアにとってスーパーやディスカウントストアの新規参入は脅威であるが、顧客の大半は医薬品や関連商品を購入する目的を持ってドラッグストアに来店することから、OTC医薬品販売の専門店として価格以外の面のサービスを強化することで他業態との差別化を図ることが必要であろう。またそのためには販売員のスキルの向上が求められる。

(3)配置販売業:離島が多い沖縄県では配置販売業(置き薬)の需要が高く増加傾向にある。伝統的な和漢生薬を扱う配置販売業者にとって、医療機関では取り扱うことができない予防薬は得意分野なので、全国的に予防薬の販売に力を入れていく方針であり、販売員のレベル向上に向けた取り組みが始まっている。顧客へのオーダーメイドに近いサービスの実現が、他業態に対する大きなアドバンテージとなろう。

(4)コンビニエンスストア:コンビニエンスストアでのOTC医薬品販売は首都圏で一部実験的に始めたばかりであるので、県内で短期間のうちに新規参入することはないとみられるが、参入するには売場面積と登録販売者の確保が課題である。当面は地域の中核にある直営店で、第2類、第3類医薬品に特化した、小パッケージのOTC医薬品が主流となるだろう。

(5)県内大手スーパー:改正法施行後、県内大手スーパーがOTC医薬品販売を開始しており、買い上げ客数が増加するなど既にある程度の効果がみられる。スーパーにおいては第2類、第3類医薬品に特化した店舗展開となろう。今後、取り扱い店舗を増やしていくためには登録販売者の確保が課題となるが、スーパーでのOTC医薬品販売が消費者に認知されれば大きな勢力となるとみられる。

6.2006年の学校教育法改正で薬科大学の教育課程が6年制へ移行したため、薬剤師は2010年から2年間は新卒者が出ないうえに、その後誕生する薬剤師は医療分野での活躍が期待されており、医薬品販売業界では薬剤師の獲得が難しくなると思われる。
そのためOTC医薬品販売の専門家である登録販売者の育成が急務となるが、始まったばかりのこの制度が、十分な人数となり人材が流動化するには2~3年は必要である。
優劣の判断は難しいが、都道府県によって登録販売者試験合格者のレベルにバラツキが生じている可能性も否定できない。一方で現在の登録販売者のレベルは、薬剤師とあまりに違いすぎるので、的確な説明、判断を消費者に提供できるかどうかを疑問視する声も聞かれる。試験合格者のレベル合わせとともに、合格後の研修などで登録販売者のレベルを上げていくことが行政、OTC医薬品販売業界には求められよう。

7.法改正で県内の多くは医薬品が求め易くなったといえるが、離島住民などの利便性は、2年間の経過措置はあるものの、インターネット等の通信販売規制により大幅に限定される。便利さという点で都市部と格差が生じるのは避けられないことであるが、国民が健康な生活をおくるためにもOTC医薬品がどこでも必要な時に購入できる仕組みの構築が求められ、仕組みの構築には、場合によっては行政の関与も求められよう。

 

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