調査レポート
トランプ関税に関する沖縄県内事業者578社調査 ~現下の影響は限定的も「今後何らかの影響がある」が半数超~
( 要 旨 )
・米国のトランプ政権が発表した各国に対する包括的な関税政策により、各国経済へ大きな悪影響をもたらすとの懸念が世界中で広がっている。当社では、県内事業者の米関税政策への認識を可視化するため、(株)琉球銀行と共同で沖縄県内の事業者578社へアンケート調査を実施し、課題や求められる対策について考察した。
・米関税政策とは、全ての国からの輸入品に対して一律10%の関税を課す「ベースライン関税」と、対米貿易黒字が大きい国に対しさらに高い「相互関税」を課す、というものである。国際通貨基金が2025年の世界経済成長見通しを引き下げたほか、日本を含め金融市場も乱高下するなど、米国の政策の発表を受けた反応は大きい。
・沖縄県の産業構造の特徴として、第二次産業の構成比が小さく、第三次産業の構成比が大きいことが挙げられる。また、製造品などの輸出は小規模だが、消費財や資源の多くを輸入に依存する傾向が強い。したがって沖縄県内事業者は関税政策による直接的な影響を受けにくいが、観光関連産業を中心とするサービス業は、各国の景気動向や地政学リスク、為替レートの変動などの影響を受けやすいと考えられる。
・調査結果から、米関税政策による県内事業者への影響は現時点で限定的だが、今後影響が出ると予想する事業者は半数を超え、その多くが悪影響を懸念していることがわかった。現時点で影響を受けている事業者からは、市場の混乱による販売量・機会の減少、コスト増加、また一方では、円高による仕入れ価格の低下という多面的な影響が確認された。
・回答者へのヒアリングを通して、海外取引の無い事業者でも、取引先を通した商流により間接的に為替等の影響を受ける場合があることがわかった。一方、輸入を行う事業者では、米国のアジア周辺国に対する高関税政策により、行き場を失った資機材の安価での仕入れや、新しい取引先の開拓につながるのではと期待する声もあがった。
・米関税政策の影響は複雑で広範囲にわたり、かつ長期間に及ぶものと考えられる。県内では直接的影響のある事業者が少ないため、今後の想定や対策をたてることも困難であろう。アンケート結果では「マイナスの影響があると予想」する回答が半数近い一方、「対策を検討している」という回答は3割程度にとどまった。将来的な影響を懸念しつつも、どう対策を講じればいいかわからないという現状が明らかになった。
・県内事業者が取り得る対策として、①情報収集の継続と体制整備、②行政、金融機関等の支援制度の活用、③価格転嫁戦略の検討、④コスト構造の見直し、⑤販路の多角化を挙げた。短期間での対応は困難だが、米関税政策に限らず、経営上のリスク分散・低減のために検討が求められる。
・トランプ政権は関税政策を発表した後も、発動の一時停止や中国に対する関税率の引き下げなど、その方針を目まぐるしく変更してきた。今後の動向についても引き続き注視が必要であり、貿易取引の有無にかかわらず、情報収集を怠らず、金融機関や各種団体、行政機関と連携を図りながら、必要に応じた対策を早期に検討していくことが重要である。