調査レポート
沖縄県内のホテル施設調査と需給バランスからみた課題と持続可能な観光へ向けた取り組み
( 要 旨 )
・沖縄県では、コロナ禍からの回復により観光需要が急増し、それに伴いホテルの新規開業が続いている。本レポートでは、独自のホテル施設調査を実施し、県内のホテル需給バランスと業界課題について分析を行った。
・調査結果から、県内のホテルは那覇市内が最多で全体の28.2%を占め、価格帯では低価格のバジェット・エコノミークラスが多数を占めることが判明した。また、所有形態では施設数では県内所有者が69%を占める一方、客室数では県外所有者が半数を占めており、大型ホテルは県外資本が多い傾向が見られた。
・アンケート調査からは、主な経営課題として「稼働率向上」「販売価格競争」「人員不足」が上位に挙がった。また、行政への要望として「過当競争対策」「観光資源保護」「外国人採用支援」「オーバーツーリズム対策」等が挙がった。また調査を通じて、上記の経営課題のほかにも無人・非接触型施設の増加や住宅地への立地など、新たな課題も浮き彫りとなった。
・需給バランスの分析では、2022年末時点のホテル・旅館の収容人数は約13.6万人で、2017年末から1.47倍に増加している。一方、年間平均でみた1日当たりの宿泊需要は、2024年が約7.2万人と推計され、2031年でも約8.9万人にとどまる見込みである。
・宿泊需要については、季節ごとに繁閑があるため、需給バランスを月毎に比率でみると、繁忙期である夏休みシーズンにおいても需要よりも供給が多い状態であり、閑散期についてはさらに比率が下がる。ホテルの適切な稼働率を80%と仮定した場合においても、供給は十分であることがみてとれる。計算は理論上のものであるが、季節変動を考慮しても、現状の供給は需要を大きく上回っている。
・今後、宿泊施設が更に増加し、過剰供給の状況が続くと、県内のホテル間の過当競争がますます激化し、宿泊料金の低価格化や人材確保の困難さから、経営に悪影響を及ぼすことが想定される。その結果、施設の老朽化や安全性の低下、サービス品質の低下、観光客の満足度低下に繋がることが懸念され、対策が必要である。
・先進的な事例として、恩納村の取り組みを紹介した。恩納村では条例を制定し、自然環境と景観を長期的に維持・保全するための重要な枠組みを提供している。条例により、自然環境を守りながら、住民と観光客の共存を目指し、持続可能な観光地づくりを行っており、他の地域でも参考になる事例である。
・調査を通じて明らかになった宿泊業の課題について、沖縄県の観光産業の持続的発展のために必要な取り組みとして①行政・事業者など関係者の協議と連携の場を設け、定期的に開催すること、②効率的なデータ管理と情報共有の仕組みの構築を提案した。
・量的拡大から質的向上への転換を図り、持続可能な観光地としてのさらなる発展に向け、既存施設の高付加価値化や人材育成の支援、効果的な需給調整などの宿泊業界の課題と、オーバーツーリズムに起因する社会課題について、関係者が一つになり協議し取り組んでいくことが求められる。