Ryugin Research Institute Ltd.

調査レポート

泡盛業界の現状と課題、展望

要旨

○泡盛の出荷量は、復帰後、基調として増加傾向を辿り、1990年代半ば以降は県外出荷も拡大し、2004年には総移出量に占める県外移出の割合も初めて2割を超えた。しかし、翌2005年は総出荷量が14年ぶりの前年割れとなり、県外出荷も15年ぶりの前年割れとなった。

○この要因としては、低価格品の流入や大手ビールメーカーの焼酎市場参入に伴う競争激化、全国的な焼酎ブームの陰りなどが挙げられる。また、泡盛業界では2004年に消費者に対する品質の説明責任の重要性を踏まえ古酒の年数表示や生産履歴を厳格化する「品質表示の自主基準」を導入したが、これに伴い古酒の出荷量が減少したことや製造日付の詰口表示が賞味期限と誤解されたことによる返品の増加等も減少の要因とみられる。業界では今後、泡盛の試飲商談会や同好会の各地での積極展開、熟成古酒に関する広報活動の強化等に取り組むことにしている。

○また、泡盛のもろみを搾って造る副産物のもろみ酢は、1990年代の黒酢ブームを契機に近年、急成長してきたが、県外企業を含む参入事業者の増加や廉価品による販売単価の低下などから2005年には前年比で大幅に減少した。

○業界の売上高は、2003年度でみると概ね300億円弱で、泡盛が全体の約7割強を占め、もろみ酢が2割弱、その他が1割弱となっている。2005年度は泡盛の出荷量が減少に転じ、利益率の高いもろみ酢も売上が大幅減となったことから収益状況は前年度より厳しくなっている。

○泡盛の酒税率は、1972年の本土復帰に伴う復帰特別措置により県内出荷分に限り本則の100分の40が適用され、その後、軽減税率の改定や6回の措置延長を経てきた。この間の泡盛の酒税軽減額をみると、1972年度から2004年度までの累計額で約197億6,500万円となっている。2004年度では酒税が約21億円軽減されており、酒税額は約59億円となっている。

○現在、泡盛の酒税率は本則の100分の65であるが、2007年5月には軽減措置延長の期限が到来する。2005年末現在の焼酎乙類の酒税は、アルコール分30度でみると、1.8リットルでは本則535.89円に対して泡盛は348.33円で、187.56円の軽減となっている。軽減措置の廃止により単純に価格転嫁すればこの軽減額分値上がりすることになる(2006年度税制改正により2006年5月1日以降、焼酎乙類は本則がアルコール分30度で1キロリットル当たり30万円に改正)。

○泡盛業界では、泡盛の出荷が減少に転じたことやもろみ酢の売上が大幅に減少していることなどを含めて足元の収益環境が大きく変化しており、経営環境が不透明なことから復帰特別措置の延長要請を行政側に行った。当初、延長要請は難しいとみていた県も泡盛業界に延長後のビジョン策定を義務付けた上で、政府との調整に動くことになった。

○現在、泡盛製造業者は46事業者であるが、このほかに泡盛製造業の46事業者が参加して設立した「沖縄県酒造協同組合」がある。また、焼酎の混和酒を製造している事業者が1社ある。協同組合を除く46事業者を製成規模別にみると、1000kl以上の事業者が全体の約4分の1を占めている。一方、100kl未満の事業者数は全体の約3割弱を占めている。泡盛を県外に出荷している事業者は、2003年度に44事業者であった。県外出荷分は酒税軽減措置が適用されず酒税率が本則での出荷となり、この県外出荷の割合を高めておけば軽減措置の廃止の影響を受ける度合いは小さくなる。泡盛業界では、酒税軽減措置期限切れへの対応として、総出荷量に占める県外出荷割合の目標を5割以上としている。2004年で県外出荷割合が5割以上の事業者は全体の約1割程度とみられる。また、2005年に海外出荷に取り組んだ酒造所は18社で前年を5社上回っている。

○泡盛業界の課題としては、この復帰特別措置期限切れへの対応のほか、設備投資の更新や県外販路の拡大、原料米の共同仕入れ、広報面での強化、もろみ酢のてこ入れなどが挙げられる。

○設備投資については、品質表示の自主基準導入後の古酒戦略や県外拡販戦略の取組み強化に向けて、貯蔵タンクの増設などを多くの酒造所で計画しているようである。業界ヒアリング等によると、2006年以降も約1万klの計画があり、これらの設備投資計画を実施すると、製成能力は概ね約5万klとなる(2005年の製造量の実績は2万6,306klで前年比0.6%増)。

○もろみ酢は酒造メーカーが従来、処分費用を伴う廃棄物として処理していた蒸留粕等を健康飲料として製品化したものであるが、もし、もろみ酢の売上減少が続く場合には、逆に蒸留粕等の膨大な処理に係る新たな費用負担が増加してくる。その処理費用に係る対応も課題となってくることから、こうした環境問題についても業界全体として取り組む必要がある。

○このほか、最近の泡盛業界の取組みをみると、①品質表示に関する自主基準の制定、②「琉球泡盛」のラベル等の統一表示、③県の補助金活用による県外マスコミへのPRやブランド強化事業、④国の助成金活用による県外での泡盛講演会や試飲商談会の開催、⑤全国泡盛同好会のネットワーク造り、-などを行っている。

○今後、復帰特別措置が廃止されると、本土の大手焼酎事業者にとっては、沖縄に進出する障壁が低くなるため、県内市場への参入がし易くなり、本県の人口増加や入域観光客の増加傾向、価格差の縮小などから、焼酎市場における県外事業者の県内参入が進むことも見込まれる。泡盛業界の特徴として、業界内での規模別の格差が大きいことなどから、今後は業界全体が共同歩調をとりながらも、個々の事業者がその規模に応じた経営戦略を選択していくことがより重要になってこよう。また、既に動きがみられるように県外資本との提携などを軸に事業展開を図っていくケースも今後は増加していくものと予想される。

○大規模事業者は、一般に県外出荷のウエートが高く、軽減措置の期限切れの影響は限定的なものにとどまるとみられる。今後は本土大手焼酎メーカーの参入に対して県内市場での競争力強化を図るとともに、県外市場や海外市場への積極的な展開を図っていく必要がある。一方、小規模事業者は、事業者間の再編も難しいことから、家業的経営にとどまるものの「地域限定ブランド」の展開などにより生き残りを図っていくことになろう。また、中規模事業者は、県外事業者との競争や県外市場への展開等に際して、選択肢のひとつとして事業者間の再編などにより規模を大きくするとともに、統一ブランドの開発等により県外市場への販路拡大を図っていくことも検討してみる必要があろう。業界全体としては、沖縄文化と絡ませた泡盛の付加価値の向上や観光産業との連携強化とともに、県外への販路拡大や広報活動の強化、品質面の研究開発等の戦略的展開および製造工程における環境問題への対応等のために、例えば売上高の一部を積み立てて基金を造成することなども検討していく必要がある。

(参考)

県経済における泡盛業界の経済効果について県産業連関表を用いて試算してみたところ、2004年の泡盛の出荷額を240億円と推定すると、泡盛業界も含めて県経済全体として約350億円の経済効果が発生する。波及効果を含めて約1.5倍の経済効果をもたらすことになる。

 

このページのトップへ