Ryugin Research Institute Ltd.

調査レポート

県内建設業の構造改革について

要旨

○建設業界は、財政構造改革に伴う公共工事削減により市場が縮小し、事業者数とのバランスが崩れ、経営環境がかつてない厳しいものとなっている。本県では、沖縄振興策関連のプロジェクトが進められているが、建設投資額は全国と同様に減少が続いている。

○本県の建設投資額は、1993年度(8,296億円)をピークに減少傾向に転じ、2005年度の建設投資額は5,400億円で、1993年度の約65%の水準まで減少する見通しである。

○復帰後、増加基調を辿ってきた建設業の許可業者数は、1999年度末(5,640業者)をピークに2004年度末現在5,521業者と減少しているものの建設投資額の減少テンポに比べると緩やかなものにとどまっている。一方、建設業の就業者数は、本県の全産業の就業者数が増加基調を続けている中で、1997年(約7万9,000人)をピークにその後、概ね横ばいで推移し、2003~2004年にかけて減少傾向がみられる(2004年:約7万3,000人)。

○建設業の倒産状況は、2001年以降、年間50件台で概ね横ばいで推移しているが、全産業に占める構成比は上昇傾向にあり、全産業の中で建設業を取り巻く環境が相対的に厳しくなってきている。建設業を業種別でみると、1999年度以降は土木関連のウエートが高まっている。さらに、原因別でみると受注不振による倒産の構成比が上昇してきている。

○建設市場の環境変化をみると、高齢社会や人口減少社会の到来に伴う財政面からの制約や市町村合併の進展による発注工事量の減少および社会資本ストックの整備状況等を勘案すると、公共投資の予算総額は今後とも抑制基調が続き、また、維持・補修工事のウエートが高まってくる。民間投資では、本県は将来人口推計によると2025年頃までは増加傾向が続くと見込まれており、沖縄人気による県外からの移住者の増加なども勘案すると、住宅需要は底堅く推移すると見込まれるが、所得面からの制約などにより、引き続き貸家を中心とした建設投資が予想される。非居住用の建設投資は、観光関連や情報通信関連、福祉関連施設等が引き続き堅調に推移すると見込まれるが、総じてみると横ばいで推移し、今後は維持・更新投資のウエートが高まってこよう。

○2005年度の沖縄における公共工事の減少(約270億円)が建設業や県経済全体に及ぼす影響について、県の産業連関表を用いて試算してみると、全産業で生産額が約475億円減少する試算結果となった。建設業部門では約272億円の減少となり、建設業以外の産業部門では約202億円の減少となる。名目経済成長率は約0.7%低下し、就業者については、建設業部門で約2,200人の減少、全産業では約4,100人の減少となり、本県の失業率は概ね0.6%上昇することになる。

○建設業の環境変化に対する意識調査として、当室が事業者に実施したアンケート調査結果をみると、今後5年間の公共工事について8割強の事業者が減少を見込み、公共・民間部門を合わせた建設市場についても6割強の事業者が減少を見込んでいるにもかかわらず、自社の受注見通しや利益水準については7割強の事業者が現状維持または拡大を見込んでいる。また、別の建設業関連分野および建設業以外の新分野への取組みについては、既に取組んでいる事業者と具体的に計画している事業者の合計が各々25%、17%にとどまっており、特に公共工事主体の事業者ではより低い割合となるなど建設業を取り巻く構造変化に対する危機意識や取組み状況は、総じてみると弱いように窺われる。

○建設業が本業の経営体質を強化するための課題としては、①建設市場の質的変化と自社の経営資源を十分検討した上で、不採算部門からの撤退・縮小と成長性の高い分野へのシフトを進めていく経営戦略の再構築、②既存顧客へのアフターケアや提案型営業、得意分野での差別化などによる営業力の強化、③産学官連携や公的支援制度、外部研修などを活用し、提案型営業や公共工事品確法、有望分野進出等に対応できるような技術開発力の強化、④現場まで含めた全社的な原価管理、工程管理、労務管理の徹底によるコスト管理体制の構築、⑤ITの積極的活用による経営効率化の推進などが挙げられる。

○別の建設業関連分野および建設業以外の新分野への進出事例としては、①需要の拡大が見込めるリフォーム・リニューアル事業やローコスト住宅、提案型住宅、屋上緑化、新技術開発などの建設業関連分野、②廃棄物処理事業や建設廃棄物の再資源化などが義務付けられ、今後とも環境保全の動きからビジネスチャンスが拡大すると見込まれる環境・リサイクル分野、③2000年度の介護保険制度の導入に伴い民間企業の参入が可能になり、土地造成や施設建築・改修等、本業の技術も生かされる介護・福祉分野、④高齢化や後継者不足が深刻化していることや健康志向、食の安全への関心の高まり、観光と連携したアグリツーリズムなど、市場の広がりが期待できる農林水産・健康食品分野、⑤沖縄人気の中で住宅建設等の需要が期待できる県外からの移住関連分野などがある。

○別の建設業関連分野や建設業以外の新分野に進出した企業を取材したところ、経営者が早い段階で公共工事依存からの脱却を決断し、民間部門で利益を出せるような事業の展開や経営体質の強化を図っている企業が多くみられた。こうした企業は、県外・海外視察や各種セミナーへ積極的に参加し、顧客ニーズや市場調査に基づき、自社の経営資源を検討し、企業体力があるうちに外部人脈も積極的に活用しながら新規事業を手掛けたところが概ね共通点としてみられた。また、「隙間市場(ニッチ分野)」で独自の差別化を図り、本業を補完する安定的な収益部門に位置づけている企業もみられた。

○国は、建設業に対する施策として、(i)入札・契約制度の改革による不良・不適格業者の排除の徹底、(ii)分業・外注による経営効率化、資機材調達や積算・設計等における企業間連携、合併や協業組合設立等の経営統合、(iii)これまで培ってきた技術とノウハウを活かした農業・福祉・環境等の新分野への進出等による経営革新を促している。新分野進出では、5省連携によるワンストップサービスセンターの窓口を設け、雇用対策では、建設労働者の派遣を限定的に解禁し、建設労働者の雇用の流動化を促す事業を始める。

○沖縄県では、2005年度重点施策の中で建設業の新分野進出や構造改善について言及しているものの、建設業に特化したより具体的な施策の策定や取組みには至っていない状況である。他県の施策においては、縮小・撤退を選択する建設企業に対する雇用対策を用意するなどより踏み込んだ事例もみられる。三位一体改革の本格化による補助事業の削減が見込まれる中で、雇用のセーフティネットの整備や成長が見込める有望な分野への労働力移動、さらには縮小・撤退企業に対する支援策も含めた雇用対策が、建設業の再生に向けて喫緊に取組まなければならない課題である。

 

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