Ryugin Research Institute Ltd.

調査レポート

特集 沖縄金融特区の実現に向けて

要旨

〇平成14年4月1日から「沖縄振興特別措置法」(以下沖縄振興新法)が施行された。同法には今後の沖縄振興を方向づける新しい制度が数多く盛り込まれたが、その中でも「金融業務特別地区」(以下金融特区)の創設に関する制度は北部振興、ひいては沖縄経済の活性化につながるものとして注目されている。地元金融機関としても、同特区の創設には積極的に協力し、また活用することを真剣に検討するものである。 地元金融機関としての役割は「自行による特区の活用、特区への進出」と「特区へ進出してくる企業のサポート」が考えられる。本レポートでは、金融特区制度全体を概観しながら、この2点についてその可能性について検討してみた。

〇今なぜ金融特区なのか。 島嶼県である沖縄での産業振興を考えると、常にその遠隔性が問題となり、輸送コストが高いという物流面での不利性が付きまとってきた。また市場規模が狭小なことからの基盤整備の非効率性も問題となった。そのため、特別自由貿易地域等での製造業を中心とした企業誘致の成果は、必ずしも十分ではなかった。 それでは、金融特区はどうかというと、基本的に物のデリバリーを伴わない、バーチャル主体の金融業、それに付随する関連産業の誘致であり、既述の不利性に阻害されないというのが、沖縄に適した産業として期待されるところである。 世界の三大金融センターはニューヨーク、東京、ロンドンであるが、これらの巨大市場を補完する形で、大国に隣接する沖縄のような島々に造られた金融業務地区がある。そのほとんどが観光とうまく融合して運営されている。観光を基幹産業として位置付ける沖縄県にも実現の可能性が高いといえる。 このような状況の中、沖縄金融特区の創設を可能にしたのは①通信分野、情報処理分野における技術革新、②規制緩和による通信料金の低下、③企業活動のグローバル化の進展であろう。

〇世界の主だった国々の金融業務地区との制度の状況を比較すると、税の軽減を含めた優遇措置、規制緩和の状況は必ずしも世界的な競争力があるとは言えない。各方面から声高に要請された一国二制度の実現とはなっていないからである。優遇措置を受けるための条件も付されており、企業誘致のインセンティブとしては、必ずしも高くない。

〇それでは、今回示された金融特区の枠組みのなかで何ができるか。これについては他の調査機関が既に、説明しているところであるが、①金融関連バックオフィス業務、②資産運用業務、③資金管理業務等が考えられる。「キャプティブ保険」についは、政府へ継続要請中であり、沖縄振興新法の対象外となっているためここでは触れない。

〇前述の業務を特区で行う際に必要な支援として、既に県が必要と考え、実施している通信助成措置として、通信費補助、人件費補助、オフィス賃料の補助がある。その他、更に特区への企業進出を促す措置として、①住民税の軽減、②高速料金の補助、③那覇空港での無料駐車スペースの確保、④特区内への行政出先機関の設置、⑤特区内銀行の支店等に対する地方税の免除等が考えられる。

〇企業誘致で常に問題となり、また誘致企業の集積が進まない過程ではなかなか実現しにくいのが、サポート事業の整備であろう。金融特区についても、特区に進出する企業をサポートする企業の存在が欠かせない。本レポートでは、金融特区を支える事業・業務として、進出企業が必要とするサービスと特区勤務者が求めるであろうサービスについて検討した。

〇金融特区創設にあたっての問題点、課題として特区自体の知名度の低さがある。これは情宣活動主体が不明確なためと思われるが、これの解消には今後の誘致活動強化、誘致対象企業の拡大が求められる。その他、誘致活動を阻害するものとして現在の金融業界の業務環境並びに収益環境の悪化がある。

〇金融特区創設に向けての産官学の取り組みについて検討した。行政側の役割として、進出企業の誘致、インフラ整備の推進・調整、地元経済界として進出企業のニーズへの対応と協力、そして大学等の役割として、技術者の育成を挙げた。

〇金融特区実現のために地元金融機関の役割として2つ想定した。地元銀行として特区に進出してその特別措置を有効に活用して特区の発展に貢献する方法と、特区のサポート企業としての位置付けである。 特に当行(琉球銀行)の特区進出の可能性を検討した場合、銀行業務の電算処理を行う「電算センター」(アウトソーシング)が県外にあるため、沖縄-県外間の通信コストを軽減するための特区進出が検討の対象となる。また、自前の運用業務部門の特区内設置、テレホンバンキング、インターネットバンキング関連のコールセンターの移設が検討できる。 当行のサポート企業としての役割としては、進出企業への預金業務・融資業務、外国為替業務等の通常銀行業務サービスの提供、また進出企業のバックオフィス業務の受託等が考えられる。特区内で業務を受託するには、いわば先進の金融機関の業務をサポートするためのノウハウが必要であり、地元金融機関としては、そのための人材の育成、ノウハウの習得が課題となろう。

〇むすびとして、金融特区創設のための法律はできたが、創設に向けての環境は必ずしも十分ではない。今後は、行政、地元金融機関、経済界、大学等の研究機関が連携して、それぞれの役割を認識し、果たしていく努力が必要と思われる。

 

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