Ryugin Research Institute Ltd.

調査レポート

県内卸売業の現状と課題について

要旨

○ここ数年来、県内でも大手小売業者による大型店の出店が増えている。このため小売業者間の競争は激化しており、淘汰される中小小売業者も多くなっている。この影響は卸売業者へも及んでいる。また、全国的には卸売業者を介さずに、製造業者と小売業者が直接取引をする「中抜き」という取引形態が広がりつつある。従って、小売業者の競争激化、淘汰による取引先(中小小売業者)の減少のほか、全国的な中抜きの流れなど、卸売業者を取り巻く環境は厳しくなりつつある。

○このような状況下における県内の卸売業の現状をみると、1999年現在で商店数は3,619店、従業者数は31,845人、年間販売額は1,690,136百万円となっている。1商店当たり年間販売額は467百万円、従業者1人当たり年間販売額は53百万円となっている。

○時系列の推移をみると、商店数、従業者数、年間販売額ともに1991年まで順調に伸びた後、1994年は落ち込んでいる。その後、1997年、1999年と回復傾向にあるものの、商店数については1999年現在でも1991年の水準を下回ったままである。県内卸売業にも淘汰の波が押し寄せていることがうかがえる。販売効率を示す1商店当たり年間販売額、従業者1人当たり年間販売額については1991年以降、頭打ちの傾向がみえ始めている。ここでも県内卸売業者の経営環境が厳しくなってきていることがうかがえる。

○従業者数の規模別で県内卸売業をみると、1997年現在で従業者数9人以下の業者が全体の78.3%を占めており、規模の小さな業者が約8割を占めている。経営組織別に同構成比をみると、法人卸売業者は63.3%、個人卸売業者は96.2%となっており、個人のほとんどが規模の小さな業者となっている。

○個人は、商店数、従業者数、年間販売額、1商店当たり年間販売額、従業者1人当たり年間販売額ともに1988年にピークを打ち、その後は先細りの傾向がみられる。明らかに全体の流れと異なっており、規模の小さな業者の厳しい実態が浮き彫りとなっている。

○中小卸売業者の構成比の高い県内卸内業においては、①多頻度小口配送等への対応、②一方的なコスト負担、③中小小売業者との取引の効率化、などが問題となっており、これらの課題解決が求められている。

○多頻度小口配送への対応としては、情報システムや配送システムの構築による効率化が考えられる。ただ、規模の小さな卸売業者がこれらのシステム構築を個別に行なうには、資金面でかなり厳しいものがある。配送システムの効率化の一手段としての荷分け・検品のデジタルピッキングというシステムは年間売上高100億円以上の規模でなければ導入しても採算に見合わないとも言われている。つまり、規模の小さな業者が個別で対応するには無理があり、規模の拡大を図らなければ効率化投資も難しいということである。従って、現実的な対応としては卸売業者間の提携等が考えられる。実際、県内卸売業者においては、共同で大型コンピューターを購入し経営管理システムを稼動させている事例があり、また過去には試験的に共同配送を行なった事例もある。今後、このような複数業者による情報システム、配送システムの構築が現実的な対応として考えられる。

○一方的なコスト負担への対応としては、保管コストや返品コストなどの取引条件の明確化が考えられる。一言で片付けると簡単であるが、卸売業者は小売業者との取引においては立場が弱く、卸売業者から小売業者へ取引条件の明確化を切り出せないのが現実となっている。ただ、本県の場合は地理的な問題もあり、他府県と比較して物流の中での卸売業の果たす役割は大きなものがある。県内卸売業者においては、この点を改めて認識し、取引条件の明確化について考えるべきである。ただ、個別の対応では小売業者が他の卸売業者へ乗り換える可能性もあるので、業界全体で取引条件の明確化に真剣に取り組む時期に差し掛かっていると言える。

○なお、取引条件の明確化を求めるにあたっては、卸売業者自身の物流コストの正確な把握なくしては、小売業者へコスト金額の提示、分担を求めることはできない。県内卸売業者においては、この物流コストの把握について早急な対応が求められる。 ○中小小売業者への対応としては、行政による支援が考えられる。卸売業者と小売業者の関係は表裏一体といえ、卸売業者の効率化を推し進めるためには、小売業者の効率化も必要不可欠である。しかしながら、県内の卸売業者、小売業者ともに規模が小さな業者が多く、独自での効率化投資には限界がある。今後、行政による支援が期待される。

○今回のレポートでは、課題の解決手段として様々な対応策を考察した。ただ、ヒアリングなどを通して卸売業者の置かれている現状みると、改めて個別での対応の難しさが認識される結果となった。現実的な対応として業者間での提携等が考えられ一部では実現しているが、ほとんどの場合、卸売業者間の温度差などもあり実現していない。従って、最終的な鍵は卸売業経営者自身が握っていると言える。今一番必要なのは、卸売業者(業界)の意識の変革と思われる。

 

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