Ryugin Research Institute Ltd.

調査レポート

沖縄県と全国の所得格差についての分析

(要旨)

○本土復帰後、沖縄県では高失業率と1人当たり県民所得の低さが経済面での大きな課題であった。このうち失業率は2010年代に入ると県内景気の長期に亘る拡大や人手不足感の強まりなどで改善し、近年は全国並みに近付いてきている。しかし、もう一つの課題である1人当たり県民所得は、依然として全国で最も低い状況が続いている。以下では、1人当たり県民所得が全国比で低い要因について経済構造や就業構造などの面から分析を行った。

○復帰後の1人当たり県民所得の全国との格差は、全国の1972年度を100とすると72年度の59.5から86年度には75.1まで縮小した。しかし、90年代に入るとバブル崩壊により全国、本県とも長期に亘って停滞したことから全国、本県とも1人当たり所得は2010年頃までほぼ横ばいで推移した。この間、一人当たり所得格差は概ね70前後で推移した。10年代に入ると全国、本県とも景気が回復傾向を示し、10年代後半には本県の拡大テンポが強まったことから、1人当たり所得格差は70台前半まで縮小している。各都道府県の1人当たり県民所得を新型コロナウイルスの感染前の2018年度でみると、本県は229万9千円で全都道府県の中で最も低く、全県平均(338万6千円)の7割弱で、最も大きい東京都(同593万1千円)の4割程度となっている。

○県民所得は、県民雇用者報酬と企業所得、財産所得からなる。18年度の雇用者報酬について総人口ではなく、これを稼得している県民雇用者1人当たりでみると、本県は373万6千円で全国最下位ではあるが、ひとつ上の鹿児島県の378万円とは4万4千円の差であり、ふたつ上の鳥取県の378万7千円とは5万1千円の差となっている。次に、企業所得について同所得を生み出した県内就業者1人当たりでみると、本県は78万2千円で全国45位となっている。以下46位が大阪府、47位が神奈川県で、都市圏の府県となっている。大阪府や神奈川県は企業所得が全国に占める割合は高いものの、就業者数が全国に占める割合が上回っていることから、就業者1人当たり企業所得が低くなっている。財産所得については、大方の県民が何らかの財産を所有しているとみなし、総人口1人当たりでみると、本県は17万3千円で全国23位とほぼ中位の順位にある。これは財産所得としての軍用地料の影響が大きい。

○本県の1人当たり県民所得の全国との格差を1990年度以降について、所得生産比率と労働生産性、修正就業率の3つの要因に分解してみた。2010年度頃までは、労働生産性と修正就業率の寄与度がほぼ同じ時期もあるが、基調としては修正就業率の寄与度が大きい。すなわち県人口に占める就業者の割合が全国より低いことが1人当たり所得格差の第一の要因である。しかし、10年代についてみると、修正就業率の差による寄与度が小さくなり、一方で労働生産性の差による寄与度が大きくなっている。よって、近年の本県の全国との1人当たり所得格差の主な要因は全国との労働生産性の差によるものであり、県内の各産業における労働生産性の向上が課題といえる。なお、2010年度以降に修正就業率の寄与度が小さくなっているのは、2010年代の県内景気の拡大や人手不足感の強まりから雇用情勢が大きく改善し、全国との差が大きく縮小してきたことによる。

 

 

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