Ryugin Research Institute Ltd.

調査レポート

沖縄県の景気動向指数の作成と景気の山、谷の特定

【 要 旨 】

・当研究所では各調査機関の景況調査とともに景気判断を行う際の参考となる指標として、景気に敏感に反応する複数の経済指標の動きを統合した景気動向指数を作成した。また、今回はこの「景気動向指数」を用いて、本県の景気循環の山と谷がいつであったかを特定するためにヒストリカルDIを作成し、景気基準日付(景気の山と谷)を特定した。りゅうぎん景気動向指数として採用した指標は、入域観光客数、建築着工床面積(非居住用)、有効求人倍率など7つの指標である。

・この景気動向指数(DI)の推移をみると、原則として3か月以上DIが50を上回っているか否かで景気の基調判断を行うことになっているが、単月のDIは振れが大きく基調判断は難しい。そこで、この月次のDIを累計した累積DIで2010年以降の県内景気の動向をみると、県内景気は1990年前後のバブル景気とその後の平成不況や2000年代の全国の長期に及ぶ緩やかな景気拡大、08年のリーマンショック、11年の東日本大震災・原子力発電所事故、その後のインバウンドの増加や建設投資の拡大に伴う長期の景気拡大、そして新型コロナウイルスの感染拡大による景気の落ち込みなどがみられる。

・特に10年代は、東日本大震災・原子力発電所事故が発生した11年3月を底に県内景気は持ち直し、インバウンドの増加や振興予算の増額、ホテルや大型商業施設の建設などにより長期の景気拡大が続いた。長期に及ぶ景気拡大に伴い、本県の大きな課題であった雇用情勢も大きく改善し、失業率は全国並みに改善した。この累積DIをみると、長期に及んだ景気拡大も19年10月頃にピークとなり、その後は景気拡大のテンポが減速していることが窺われる。

・この減速傾向の中、2019年12月には中国で新型コロナウイルスの感染が確認され、20年に入ると世界中に感染が拡大し、国内外の経済活動は大きな打撃を被った。輸出産業がほとんどなく観光関連産業が基幹産業である県経済は、人の移動制限や外出自粛により全国を上回る落ち込みとなった。県内景気は大きな落ち込みの後、20年6月以降、累積DIは概ね横ばいで推移している。

・DIは景気の各経済部門への波及の度合いを表す指標であり、各経済指標が大幅に改善しようと小幅に改善しようと、改善している経済指標の数の割合が同じならば同じDIが計測される。一方、CIは景気の強弱を定量的に計測する指標であり、DIが同じ数値で計測されたとしても各経済指標が大幅に改善していればCIも大幅に上昇し、各経済指標が小幅に改善しているならばCIも小幅に上昇する。このように、CIはDIでは計測できない景気の山の高さや谷の深さ、改善や後退の勢いといった景気の「量感」を計測することができる。

・このCIの推移をみると、本県のCIは東日本大震災・原子力発電所事後が発生した11年3月の直後の4月を底に持ち直して回復に転じ、その後、長期に及ぶ景気拡大が続いた。CIは17年7月をピークに低下に転じている。経済水準は過去と比較して高水準を維持しているが、減速し始めていることが確認できる。20年1月以降は新型コロナウイルスの感染拡大により、経済水準は急速に低下した。

・その後のCIの推移をみると、20年5月を底に経済水準は持ち直しに転じている。CIは20年5月の67.9から直近の22年5月は113.4まで上昇しており、20年5月の底から約1.7倍まで回復している。また、22年5月の経済水準は直近のCIがピークとなった17年7月の167.8と比較すると、直近の経済水準は約68%の水準まで回復しており、新型コロナウイルスの感染の影響がでた20年1月の104.5と比較すると約9%程度上回っている。

・本県のヒストリカルDIにより直近の景気の山を特定すると、景気の山は18年9月となっている。この18年9月のCIは141.6であり、直近の22年5月の113.4と比較すると、直近の景気の山から約8割の水準まで回復していることになる。また、沖縄県と全国のCIの推移をみると、景気循環は概ね一致している。

・なお、リーマン・ショックがあった08年は全国のCIの落ち込みが沖縄県より大きく、製造業のウエートが小さい沖縄県では影響が小さかったことが窺われる。また、直近のCI値をみると沖縄県、全国とも新型コロナウイルスが流行し始めた20年1月の水準を上回っている。

・19年以降のCIの月次の増減をみると、新型コロナウイルスの流行が拡大した20年3~4月にかけて大幅に減少したが、その後は増減を繰り返しながらも基調としては増加傾向にある。各経済指標の増減寄与度をみると、21年後半以降は入域観光客数の持ち直しなどから入域観光客数やホテル稼働率で概ねプラスの寄与度が大きいことが窺われる。

・次に、DIを用いてブライ・ボッシャン法により本県のヒストリカルDIを作成し、これにより県内景気の山と谷の時期(景気基準日付)を特定してみた。この結果、本県の1977年以降の景気の山と谷は概ね8回の景気循環があったものとみられる。直近の景気の山と谷は、景気の山が2018年9月であり、谷が20年5月であったと推察される。内閣府が公表している我が国の景気循環と比較すると、全国は1977年以降、8回の景気循環があり、本県の景気循環も8回となっており、同じ回数となっている。特に直近の景気循環は景気の山と谷の時期がほぼ同じであり、その結果、期間の長さもほぼ同じである。

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