Ryugin Research Institute Ltd.

調査レポート

コロナ禍での労働市場の変化と働き方改革

要旨

〇 新規感染者数と移動人口の推移
 2019年末に確認された新型コロナウイルス感染症は、新規感染者数の増加と減少を繰り返し、21年10月までに流行の「波」が5回発生した。第5波までの感染状況と移動人口をみると、第1波の20年4月は、感染者数は僅かであったが、未知のウイルスに対する恐怖心や政府の緊急事態宣言の効果もあり、本県の移動人口は大幅に減少した。20年7月以降の第2波では移動人口が再び減少したが、減少率は第1波より小さくなっている。この第2波では接待を伴う飲食店などでの感染が多くみられた。20年11月頃からの第3波ではより広い地域や幅広い年代層に感染が広がり、家庭内感染の割合が増加した。この時期の移動人口をみると減少率は第2波より更に小さくなっている。第3波では年末年始の恒例行事や帰省が感染の急拡大につながったと指摘されている。21年3月後半からの第4波では「変異ウイルス」の出現で感染が急激に広がった。政府はゴールデンウィークを見据えて前回よりも強い措置をとったが、移動人口は減少の動きがみられたものの両者の逆相関の関係は弱まっている。21年7月後半以降の第5波では、新規感染者数がこれまでで最大の増加となり、自宅療養の患者が急増し、死亡者も増加するなど医療体制が危機的な状況に陥った。第5波では高年齢者のワクチン接種の進捗により高年齢者の感染者の割合が減少し、50代以下の中高年や若年者で感染が拡大した。第5波は爆発的な感染となったにもかかわらず、移動人口の減少率は第4波とほぼ同じであった。コロナ禍の長期化で「自粛疲れ」や事業や生活が成り立たない人々の活動再開が指摘されており、感染拡大が繰り返される過程で政府の宣言などの政策効果が薄れてきていることが伺われる。

〇 新型コロナウイルスが労働市場へ及ぼした影響
 新規感染者数の増加に伴う緊急事態宣言が繰り返されたことにより移動人口の減少がみられたが、これは宿泊・飲食サービス需要の減少やイベント開催の制限、大型施設の休業などによるもので、対面型サービス業の売上が大幅に減少し、雇用情勢が悪化に転じた。その後、「Go To キャンペーン」などで持ち直したもののコロナ前の水準を下回った状況が続いている。ただし、コロナ禍でも全産業では基調として人手不足が続いており、情報通信業や建設業などは不足感が強く雇用情勢が業種によって二極化している。人手不足の一因として労働力の一翼を担ってきた外国人が入国規制で減少していることも挙げられる。また、今般のコロナ禍での特徴として休業者が大幅に増加した。雇用調整助成金の特例措置を事業主が活用したことによるもので、失業者の大幅な増加を抑える効果があった。失業者の特徴をみると特に20代の若年層の失業者が増加し、飲食店・宿泊業などでの非正規雇用者への影響が大きかったものとみられる。ところで、失業には求人数の減少など労働需要不足による失業と求人側と求職側での条件などのミスマッチなどによる構造的な失業がある、失業を需要不足失業と構造的失業に分けるUV分析でコロナ前とコロナ禍での失業の要因を分析してみた。分析結果によると20年のコロナ禍では需要不足失業率が上昇に転じたことにより全体の失業率が上昇し、21年はミスマッチなどによる構造的失業率が高まっている。20年は対面型サービス業での求人の急減な減少に伴い需要不足失業が増加し、21年はコロナ禍が長期化する中で働き手が余っている業種から働き手が足りない業種への労働移動のニーズが高まっているものの、求人側と求職側の条件などのミスマッチにより構造的な失業が増加している可能性がある。

〇 コロナ禍における働き方改革
 労働力人口が減少する中、政府は2018年6月に「働き方改革関連法案」を可決させ、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現に向けて取り組んでいる。また、高年齢者の就労を促進するため、高年齢者雇用安定法を改正し、これまでの65歳までの雇用確保義務に加え、70歳までの就業確保措置をとることを努力義務として追加した。また、最低賃金も21年度は過去最大の上げ幅となる28円が答申され、本県でも28円引き上げられて時給820円となり、10月8日から発効した。新型コロナウイルスの感染拡大は企業の経営状況を厳しくしており、こうした政府の働き方改革や高年齢者の就業機会確保、最低賃金の引き上げなどは事業者にとって逆風となっている。一方、コロナ禍は働き方についても影響を及ぼし、半ば強制的ではあるがテレワークの導入が進んだ。また、社員への副業の容認やワーケーション、在籍型出向などの動きも広がった。日本の労働市場はコロナ前から構造的な問題を抱えており、コロナ禍を大きな転機として、雇用環境の変化に応じた雇用システムに改め、労働生産性の向上に結び付けていく必要がある。なお、柔軟な働き方を進める上でデジタル化は基本的なインフラとなるが、労働者のITリテラシーの差によって雇用の二極化といった状況も生じてくる。今後はこうしたスキルを高めるための政策がより重要になる。また、雇用調整助成金の効果は大きいが、衰退産業から成長分野への人材の移動を妨げている面も指摘されており、今後はコロナ後を見据え、労働移動を促す雇用政策に軸足を移していく必要がある。

 

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