Ryugin Research Institute Ltd.

調査レポート

沖縄の気候を活かした広域サイクルツーリズムによる差別化戦略

要旨

・世界的な健康に対する意識の高まりとともに、自転車の活用が注目されている。
・沖縄は那覇空港第二滑走路の供用開始により、人の往来が増加すると予想される。今後はこうした環境をいかに観光需要に結びつけるかが重要となる。
・本レポートでは、沖縄での広域サイクリングルート整備によるサイクリスト誘致の可能性について検証を行った。サイクリストとは、スポーツバイクと呼ばれる自転車を趣味とするサイクリング愛好家をさし、広域サイクリングルートを整備することで、サイクリング+αの観光を提案し、最終的にはナショナルサイクルルートへの認定を目標とする。
・先進事例として、ナショナルサイクルルートに認定された、「しまなみ海道サイクリングロード(広島県、愛媛県)」を取り上げる。県主導による強力なリーダーシップの下、一過性に終わらない様々な自転車施策が取り組まれており、欧米豪露などからサイクリストの誘客に成功している。主な取組みは、①推奨ルートを示す道路上のブルーラインの設置、②安全な走行区間の確保、③サイクルオアシスによる住民参加型のおもてなし、である。近年は喫茶店などの飲食店や宿泊施設など、サイクリスト向け施設が相次いで誕生している。
・沖縄では、すでに民間企業によってレンタサイクル事業が担われている他、国内屈指のサイクルイベント「ツール・ド・おきなわ」が毎年開催されている。
・沖縄のレンタサイクル事業の貸出実績をみると、以下のことが分かった。①民間のレンタサイクル事業者が少なくとも30社以上あり、一定の市場規模があること、②夏場は比較的貸出台数が少ない一方、それ以外の時期は貸出台数が多いこと、③欧米豪露など、国籍問わずレンタサイクルの利用がされていること、④40~50代が最も多くレンタサイクルを利用していること、⑤利用日数が4日以上の観光客が最も多いこと、などである。
・ツール・ド・おきなわの参加者をみると、ミドル層、シニア層の参加が目立つ。また、2018年、サイクリング部門の「沖縄本島一周サイクリング」は海外からの参加者が約8割を占め、そのうち台湾からの参加者が際立って多い。
・観光地におけるサイクリストの消費額は、データの制約から把握が難しいが、サイクリストはミドル層、シニア層に多く、観光消費額を見込めることが分かった。平均滞在日数はレンタサイクルの貸出期間をみると、4日以上利用されており、自転車で周遊する観光客は滞在日数が長い傾向にある。入域観光客数は、夏場に多く、それ以外の時期は比較的少ない。沖縄県内のレンタサイクルの貸出実績は夏場に少なく、それ以外の時期に多い。県外において路面が凍結する冬場でも、沖縄は暖かく他県との差別化を図ることが期待できる。
・しかし、先進事例と比較した際、沖縄のサイクルルート整備は進んでおらず、断片的で、ブルーラインのような目的地をつなぐ明確な表示もない。また、自転車が安全に走行できる走行区間の整備は市町村によってばらつきがある。現状においてサイクリストが快適に走行できる環境整備は限定的と言える。今後、広域サイクリングルートを整備するためには、強力なリーダーシップの下、ナショナルサイクルルートの認定を目指した取組みを重ねることが求められる。

 

このページのトップへ