Ryugin Research Institute Ltd.

調査レポート

県内企業の人手不足の対応と課題

【要旨】

 全国的に「人手不足」が問題となっており、県内においても顕在化している。求職者にとっては望ましい環境になりつつあるといえるが、求人側である企業は、労働力を確保するために時給・給与のアップや機械化など様々な対応を迫られている。
 本レポートは、弊社が月例の景況調査先を中心に7月~9月に取材を行った内容をまとめたものである。県内の小売業、建設業、ホテル業界(観光業)が直面している人手不足の現状および対応策を紹介し、人手不足の実態と課題を明らかにする。

(1)小売業
 足元の県内個人消費は好調を維持している。一部のスーパーでは新設店の出店や既存店のリニューアルオープンが行われており、来年度以降も前向きな動きがみられる。このような中、県内小売業の人手不足感はこの2~3年間で急速に強まっている。各社では、正社員・非正社員ともに目標の人数を確保できない状況が続いている。なかでもレジ担当者が不足しており、その応援に入る正社員・非正社員にしわ寄せが出ている。県経済の拡大基調や入域観光客数の増加などを背景に来店客数は増加傾向にあり、盆や正月など行事のある月の人手不足はさらに深刻となっている。
 各社では、時給の引き上げや対象者の幅を広げることにより引き続き新規採用に力を入れ、また定年退職を迎える経験者の再雇用や60歳超の未経験者の採用といった高齢者の活用も進めている。一方で、既存社員に長く勤務してもらうための待遇および職場環境の改善に積極的に取り組んでいる。非正社員の正社員への登用、女性の管理職への登用、社員食堂のリニューアルなどである。WEBサイト管理や商品配送といった一部業務のアウトソーシング化を進めて、既存社員で現場をやりくりする態勢整備も行っている。また、セルフレジの導入や買い物客への袋詰めの協力依頼など省力化にも取り組んでいる。
 小売業の現場には女性が多い。産休・育休・介護休暇制度の充実や企業内保育所の設置を求める声もある。個別企業の取り組みはもちろん、それを推進するための補助金や規制緩和などの行政の取り組みも必要不可欠である。
 人手不足は、業界ひいては県内経済の成長のためにも解決を避けては通れない喫緊の課題である。求職者が職場を選ぶ際の目線は厳しくなっており、働きやすさを感じられない職場は選ばれにくくなっていると考えられる。企業は賃上げだけではなく、働く社員の立場に立った待遇・職場環境の改善や投資などを実践していくことが求められるだろう。さらに、人手不足を県内小売業全体の問題として、業界が連携して行政や県民に提言や情報を発信していくことも重要である。

(2)建設業
 2015年は公共工事および新設住宅着工、企業の設備投資などの民間工事が増加した。足元でも新設住宅着工戸数や建築受注額などは高水準を維持しており、建設会社の手持ち工事額は増加傾向にある。一方で、人手不足は2014年のピークよりは徐々に解消傾向にあるものの、未だ不足の状態が続いている。全国的にみても建設業界は人手不足の状態であり、同業界では引き抜きや経験者の中途採用も多く、より良い雇用条件を求めて人材が異動する状況がみられる。人手不足の影響で県内建設業界では新規受注を控えたり、建築現場の進捗が鈍く工期が延びる、労務費増加によりコスト高となる、などが表れている。
 建設業は、様々な危険を伴う工事も多く、安全面からも現場の経験が豊富な人材が求められる職業である。各事業所では、人材育成や労働環境改善による人手の流出防止策や新規雇用に取り組んでおり、建設業界は以前に比べ働きやすい職場となっている。技術革新では、工期が短縮できる工法のシェア拡大やドローンや無人建機の導入などで作業効率化を図りつつあるほか、IT業界など異業種からの人材の流入も促すなど業界にとっても大きなメリットがみられる。
 一方で、景気低迷時における建設業界の倒産やリストラ、厳しい労働条件や3K(きつい、汚い、危険)のイメージが根強く残っており、若手の建設業離れは続いている。業界では建設業を身近に感じてもらえるようなイベントを開催する動きもみられる。今後とも負のイメージ払拭に向けての情報発信が求められる。また、工事の受注状況や天候によっては人余りの状態になることもあり、行政へ公共工事発注の平準化を求める声も一部で挙がっている。
 今後は、業界景気の好調を背景としたさらなる受注増が見込まれる中、人手不足によって労働環境や技術面の質の低下を招くことがないよう、業界や行政、異業種も含めて連携を強化し、魅力のある建設業のイメージを情報発信し続け新規入職者を確保することが重要とみられる。

(3)ホテル業界
 県内への入域観光客数増加に伴い、大規模ホテルの新設や既存ホテルの増改築による客室数、収容人員は増加している。各ホテルでは、時給水準を引き上げて募集をかけているが、必要人員を確保できておらず、人手不足は強まっている。この動きはホテルの業務委託先(客室清掃業者、リネンクリーニング業者、バンケット・配膳業者)においても同様である。そのため、繁忙時期には客室清掃の遅れでチェックイン受付時刻までに受入態勢が整わないケースや、パーティー等の一部について予約を断るケースが発生している。
 各ホテルでは、後方部門や事務部門のスタッフを総動員して接客対応をするほか、魅力ある連泊商品を開発することにより連泊客を増加させてチェックインおよびチェックアウト業務の軽減を図るなど、様々な対応策を講じている。また、チェックイン受付開始時刻を遅くしたり、レストランでのランチ営業を中止するなど、現行サービスの見直しに着手するホテルも出始めている。ただ、どの対応策も現行人員で乗り切るための方策であり、新たな人材(必要人員)を確保する解決策とはなっていない。一部のホテルでは、待遇の改善(県外並みの時給水準の提示、全員を正社員として採用)を図り広く県外からも人員募集を行っている事例や、直接海外から外国人労働者を雇用している事例もある。ただ、ホテルにより企業体力が異なることや、外国人労働者の受入態勢の違いもあり、業界全体としての抜本的な対応策はみえないのが現状である。
 ホテルの業界団体である沖縄県ホテル旅館生活衛生同業組合は、平成28年度に「ホテルのしごと~沖縄の明日を担うホテル・旅館業~」という冊子を作成した。将来の人材の掘り起こしを目的として、県内学生を対象にホテル業界の仕事を広く紹介する内容となっており、来年度以降も毎年度の発行を計画している。人手不足には「一発逆転」的な解決策はない。地道な活動ではあるが、この活動が将来の人材確保につながることを期待したい。

 

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